学生実習(脂質の分析)

Practical training (analysis of lipids from a lipid yeast Lipomyces by Thin-layer chromatography)

酵母といえばパン酵母やワイン酵母など、人間とは古くから慣れ親しんだ生き物です。ただ、生き物の多様性はもしかすると、皆様の想像を超えているかもしれません。学科3年生の学生実習(生化学)では、世間ではあまり親しみのない「油脂酵母」と呼ばれる酵母を使った実験を行います。その名の通り、体内に大量の油脂を溜め込みます。最大蓄積量は、細胞質内の50%を超えることもある、と聞いたことがあります。そのメカニズムに興味が湧くところですが、学生実習でその謎を解明するのは、時間的予算的に困難です。その代わり、その脂質を抽出し、主にどんな種類の脂質を蓄積しているかを分析することは、実習としてやりがいのある実験です。一部ではありますが、実習実験の様子を紹介させていただきます。

まず、油脂酵母をガラスビーズと混ぜて、ミキサー(肩たたき器くらいの振動数で一定の振動を発生する)にかけて菌体を破砕します。

菌体破砕の進行状況を黙視で確認しています。破砕が進むと、懸濁液に少し透明感が生まれます。

破砕液を回収し、有機溶媒を添加し、酵母から抽出された脂質を有機溶媒に溶かし込みます。遠心分離機にかけて有機溶媒層と水層を分け、脂質が含まれる有機溶媒層を注意深く取り出して分取します。

ピペットで注意深く上層の有機溶媒層を吸い出しています。せっかく遠心分離で有機層と水層を分離したので、混合しないように慎重に吸い取る必要があります。混合を恐れて遠慮し過ぎると収量が減りますが、欲張り過ぎて水を吸ってしまうと、一から出直しとなります…

このようにして得た脂質抽出液を減圧濃縮装置にかけて減圧濃縮を行い、抽出に利用した溶媒を完全に除去します。その後、必要最小量の溶媒に再溶解することでしっかりと濃縮された試料を作成し、分析試料とします。

減圧濃縮の様子。2,3 mlほどあった溶媒が10分も経たぬうちに除去されます。

油脂酵母から抽出した脂質を薄層クロマトグラフィー(TLC)によって分析します。ガラスプレート表面にシリカゲルが薄く塗布されています。特定の位置に試料をスポットし、展開溶媒と呼ばれる有機溶媒をプレートに吸わせ、脂質の構造に応じたプレート上での移動度の違いをもとにして、未知物質を同定します。その同定には成分既知の標準サンプルとの比較が必要です。この実験では、レシチンとトリオレインを標準物質として利用しており、油脂酵母から抽出した脂質、2種類の標準物質を同時に分析にかけます。

油脂酵母から抽出した脂質を、薄層プレートにスポットしています。微量の試料を自作キャピラリー(極細ガラス管)で吸い取り、拡散を最小限に抑えるため、予め決めておいた位置に素早くスポットします。

展開溶媒と薄層プレートを展開溶媒にセットし、溶媒をプレートの下から吸い上げます。その溶媒の流れに乗りやすい物質は溶媒先端に近いところまで吸い上げられます。ほどほどに乗る物質、全く乗らない物質は、それぞれの位置までほどほどに吸い上げられる、あるいはまったく吸いあがらない、といった異なる挙動を示すため、分離が可能となります。

溶媒が薄層プレートを吸いあがっていくのをタイムラプス撮影しました。溶媒先端をピンクのラインで示しています。カメラの不調で撮影が途中で止まってしまいましたが、実際は、薄層プレート最上端近くまで溶媒を吸い上げます。

展開収量後、ヨウ素(蒸気)を使って薄層プレート上の脂質を茶褐色に染めます。蒸気ヨウ素を吸入してしまうと大変危険なので、染色操作はドラフト内で行います。蒸気ヨウ素で満たされた大型デシケーター(密閉可能なガラス容器)に注意深く薄層プレートを入れ、スポットが発色するまで数分間待ちます。発色反応が完了したら、スポットが消えないうちにマークを入れ、標準物質とのスポットの比較を行い、油脂酵母から抽出した脂質の種類を同定します。

スポットをマークしています。
解析例。複数のスポットを観測することができました。

皆さん、油脂酵母から抽出した脂質を確認することが出来ましたか?また、その種類は判明しましたか?
次回は、酵素の実験を紹介する予定です。