今週の実験室:結晶化用タンパク質作成に向けた大腸菌大量培養(2)

Laboratory on this week. Large scale cultivation of a bacteria E. coli to produce a recombinant protein for crystallization, pt2 of 4. On the 3rd day, the pre-cultured E. coli cells were inoculated to the larger scale (ex. 2 liter) medium. The cells were grown for several hours at 37 °C, and then a reagent (IPTG) was added to the medium for the production of the recombinant protein.

一晩前培養した形質転換済み大腸菌を、いよいよ大量培養します。今回は3リットル容フラスコに2リットルの培地を2種類用意しました。1つ目はLB培地、大腸菌培養に最もよく用いられる培地です。2つ目はTB培地、大腸菌内でプラスミドDNAがより多く作られ、結果として組換えタンパク質の生産量も上がる効果が期待されます。うまく行けば爆発的にタンパク質を作ってくれますが、特に効果が無い場合は、コストパフォーマンスの低い実験に成り下がります…

グリセロールストック作成:大型フラスコへの植菌前に、今後の実験のため、グリセロールストックを作ります。形質転換プレート上の大腸菌は冷蔵保存で1か月も持ちません(凍らせるとおそらく死ぬ)。一方、終濃度25~30%程度のグリセロールと混合後、‐80℃で保管しておけば、半年から1年ほど、組換えタンパク質生産能を維持したまま保管できます。この凍結により、実はほとんどの大腸菌は死んでいるらしいですが、わずかに生き残ったタフな菌は培養によって蘇ります。ただし、大腸菌と言えど高度なシステムを持った生き物ですので、試薬のように凍らせておけばとりあえずオッケーとはいかず、場合によっては毎回形質転換をする方が安定なタンパク質生産が達せられる可能性も有ります。

大フラスコへの植菌、培養:前培養液を植菌し、大型シェーカーにて37℃で振とうしながら培養します。フラスコにはバッフル、あるいは羽根と呼ばれるくぼみが3か所ほどあり、フラスコ撹拌時に空気と培地が良く混ざり、好気的な菌は元気に育ちます。2時間ほど培養を続けると培地が濁り始めてきます。増殖度合いは濁度を測定して数値化します。赤色の光を当て、菌体量に応じた光の透過率の低下を数値化します。組換えタンパク質発現では、特に「対数増殖期」と呼ばれる最も元気な期間に組換えタンパク質発現を促すのが良いと言われています。

試験管でもセルでも測定可能、操作が簡単、レスポンスが速い、ただし精度はやや低い?

IPTG添加⇒タンパク質生産:大腸菌にはコンピテント化とは別途、組換えタンパク質発現用の仕掛けがあり、プラスミドDNA上の対応する仕掛けと連動して目的タンパク質の組換え体が大量に生産されます。この仕掛けは通常ロックがかかっていて、ただ大腸菌を培養するだけではタンパク質を作ってくれません。もし組換えタンパク質が大腸菌にとって毒となる場合、大腸菌が増えず、タンパク質を大量に作れないので、ある程度大腸菌が増えてからタンパク質発現を促す方が都合よい場合があります。異種生物由来のDNA切断酵素を大腸菌内で大量に発現させると、その酵素が大腸菌ゲノムを片っ端から切り刻むため、酵素生産を始めた途端、大腸菌の増殖が止まることがあるそうです(ある意味気の毒な状況…)。
組換えタンパク質発現のロック解除の役目を果たすのがIPTGと呼ばれる糖を含む化合物です。適当な濁度まで大腸菌が増えたらIPTGを必要量添加して、タンパク質の発現を誘導します。37℃に培養温度を保持したまま、数時間培養を続けてその日のうちに大腸菌を回収する方法もあります(この翌日に試します)。この日の実験では、培養液を20℃まで冷やしてからIPTGを添加し、そのまま低温で一晩かけてゆっくりとタンパク質を作ってもらう作戦を試しました。

次回pt3では菌体の回収を紹介します。