今週の最も印象的なタンパク質(MIP)@2020生命を科学する2/3

Most Impressive Protein (MIP) of the week @ Lecture “Life Science” 2 of 3

前日の学科専門発展科目に続く、その翌日の全学共通教育科目「生命を科学する」。今回はタンパク質の構造と機能の多様性を議論する中で、ユニークな構造に着目した4つのタンパク質群を紹介しました。オンライン授業の特性を生かし、授業最後にチャットでアンケートを実施しました。

エントリーNo. 1:アミラーゼ。同じ基本構造を持つのに活性部位構造の違いにより、基質特異性も、生成物も大きく異なる数種類のアミラーゼが存在します。α-アミラーゼはヒト唾液にも含まれ、デンプンを幾つかのオリゴ糖にまで「適当に」分解します(エネルギーを取り出すにはグルコースにまで分解する必要がありますが、ヒトでは腸で分泌される別のアミラーゼがグルコースまで分解)。β-アミラーゼは一部の微生物や植物が持ち(ヒトにはない)、デンプンの端から「几帳面に」マルトースを切り出します。特に微生物β-アミラーゼは私に博士号を与えてくれた貴重な酵素であり、今でも強い愛着があります。

エントリーNo.2:RuvABCリゾルバゾーム複合体。遺伝子の相同組換えに関わるタンパク質トリオ、RuvA 4量体、RuvB 6量体、RuvC 2量体です。相同組換えは「生命の多様性獲得」と「遺伝情報の維持」という一見相反する両方の現象を本質的に同じ仕組みで行うユニークかつ重要な反応です。相同性のあるDNA配列間で組換えが起こります。模式図では2本の2本鎖DNAを切って取り換える模式図が描かれますが、実際の反応は複雑で基本的には1本鎖を取り換えます。その時、発見した先生の名にちなんでHolliday junctionと呼ばれる特殊な十字型のDNAが生じます。RuvAがこのHolliday DNAと結合し、RuvBがATP加水分解のエネルギーを使ってDNAをスライドさせ、適切な位置まで分岐点を移動したら、RuvCがDNAをカットし、2本の2本鎖DNAペアに戻します。

エントリーNo.3:脂肪酸β酸化(分解)酵素複合体、1つの分子あるいは複合体が、複数の酵素活性を持ち、基質を拡散させずに一気に一連の反応を行う時、多機能酵素と呼ばれます。脂肪酸に作用し、炭素を2個ずつ削りながらエネルギーを獲得する反応をβ-酸化と呼びます。脂肪酸の炭素鎖は安定なので、1ステップでは簡単に切ることは出来ず、4ステップの反応が必要で、削る炭素鎖が無くなるまで脂肪酸分解のサイクルを繰り返して効果的にエネルギーを取り出します。ある細菌由来の脂肪酸β酸化複合体は4ステップのうち3ステップの反応を担います。紹介した研究では、2種類の結晶構造を決定することで、基質チャネリングの機構が分かりました。全ての反応は酵素複合体のチャンバー内で行われます。分子の上の方で2個の反応が行われた後、3個目の反応のために基質を下方に送る時、乱暴に投げつけるのではなく、分子の構造が大きく変わり、上下のユニットが互いに接近することで「優しく、確実に」基質を手渡します。

エントリーNo.4:モータータンパク質ダイニン。ダイニンは、細胞骨格の一つである微小管上を、細胞の中心方向へ、ATP加水分解で得たエネルギーを使って歩行運動する分子モーターです。この方向へのほぼ全ての積み荷輸送を担います。同じ機能を持つモータータンパク質のミオシンやキネシンとは別ファミリーに属し、例外的に巨大な分子であり、結晶構造解析が進む前は電子顕微鏡を用いた形態観察によって構造機能相関研究が進んでいました。2012年、成果発表当時は構造解析に成功した最も長いタンパク質でした。計10個近い機能ユニットが互いに連動し、微小管を「歩く」姿がほぼ原子レベルに近い精度で明らかとなりました。

そして最後にどのタンパク質が一番印象的であったかと尋ねたところ、最後に紹介したダイニンが圧倒的多数の支持を受けました。授業では間に合わなかったのですが、ダイニンがATP加水分解に連動して腕を振る仕組みを簡単に下記ビデオで紹介します。授業を聞いていただいた前提で作った説明不足のビデオとなりました…

一方で、他の3種類のノミネートについても投票があり、受講者それぞれの視点で印象に残ったポイントを挙げてくれました。タンパク質の数だけお気に入りがあることを実感しました。来週もMIP (Most Impressive Protein) of the week 実施予定です!

p.s. 2019年9月のサイト開設から、ちょうど50件目の投稿となりました。