2021学生実習:タンパク質の多様性に繋がるアミノ酸の多様性を知る

Practical training (biochemistry) 2021. Proteins are made up of 20 kinds of small molecules called amino acids which are connected linearly to build proteins. Proteins are composed of nearly 300 amino acids in average, and each protein has the unique amino acid sequence that leads to the unique three-dimensional structure to exhibit its specific function. In this experiment, students learn the chemical variety of the amino acids that lead to the structural and functional variety of proteins.

学生実習は第6回、あっという間に最終回を迎えました。生命が生命であるために最も重要な生体高分子であるタンパク質と、タンパク質を構成するアミノ酸に関する実験です。

私達はタンパク質のおかげで生きています。水以外の体の構成成分の半分近くはタンパク質であり、タンパク質自身および他の生体分子=脂質、糖、核酸、その他諸々からどのように体を組み立てて、どのような代謝を行うかを全てタンパク質が運命づけています。地上の70憶人のヒトそれぞれがオンリーワンの存在であるのと同じように、タンパク質分子は生体内に何万種類も存在し、それぞれがオンリーワンの機能を有します。極端な場合は、たった1種類のタンパク質分子が存在しない、変異が導入されてしまっていることにより、そもそも命が発生しない、あるいは深刻な疾患を抱えながら生きていく運命を背負うこともあります。例えば日本人に多いとされる下戸は、たった1個のアルコール代謝酵素(もちろんタンパク質)のたった1個のアミノ酸変異により、代謝が全く進行せず、極端には1滴もお酒が呑めません…など、個々のタンパク質の重要性をその立体構造に基づいて理解し、その知識を集約して生命の神秘を理解しようとする学問が構造生物学です。

実験項目は2つあり(1)アミノ酸のペーパークロマトグラフィー…数種類のアミノ酸を標準物質とし、ペーパークロマトグラフィー上の展開パターンを精査して未知試料アミノ酸の同定を行う(2)酵素の実験でも用いたパン酵母について、この回は菌体破砕上清に含まれるタンパク質総量をビュレット法というタンパク質比色法を用いて定量をする、です。実験方法が互いに大きく違なり、また分析や反応で比較的長い待ち時間が生じます。1個ずつ丁寧に行うことも悪くはありませんが、それではかなり長時間の実験となってしまうので、待ち時間をうまく使って2つの実験を並行することを提案しました。研究室での実験や研究のための調査も、2個あるいは3個あるいはそれ以上の作業を同時に進めることは日常茶飯事です(マルチタスクは実は作業効率が低い、という噂を聞いたこともありますが…)。

(1)ペーパークロマトグラフィーではスタッフが事前に作成した「760本のキャピラリー」が再び出番を迎えます。皆さん、慎重にサンプルをセットして展開をしましたが、しばしば上の写真の上側のように展開が乱れて未知試料の同定が出来ない場合が有ります。サンプルがまだ残っていればもう一度試してもらい、うまく行けば未知試料の同定作業に進めます。

(2)タンパク質の比色定量法では、BSA(牛血清アルブミン)タンパク質について、一連の段階希釈溶液(濃度既知)の発色を基準とし、パン酵母から抽出したタンパク質量を計算します。タンパク質は種類ごとにアミノ酸配列が異なりますが、ビュレット反応ではアミン酸同士をつなぐペプチド結合が、試薬中の銅イオンと反応して発色するため、原則、タンパク質の種類に関係なく、量に依存して発色します。

「…というわけで、後はお好きに実験を進めて下さい」と皆さんに任せっきりとしましたが、それぞれに工夫をして2個の実験を並行してうまく進めていたように思います。図ってか図らずか定かではありませんが、ちょうど2個の実験結果がほぼ同時に出そろって、忙しそうに記録を取っている姿も見かけました。

本記事を作成する3日ほど前に既に終了試験は済んでおり、試験の最後に実習振り返りのコメントを入力してもらいました。一通りの実験内容には一定の満足を示しつつ「半分は物足らない気が…試薬やキャピラリーを自分で作れればもっと良かったかも」といった率直なご意見を多数いただきました。昨年の今頃は「来年は収束しているだろう。」と楽観視していましたが、残念ながらそうはいきませんでした。実験実施そのものが可能なだけ、まだ有難いですが、来年度は初めから3密回避を大前提として、作業スペースを確保した上で「ほぼ毎日じっくり実験(もちろんレポートも)」といった実習にできれば、と考えています。ともかく今年度受講の皆様、レポート締切が迫っておりますので引き続き頑張って下さい!